後発品企業の再編はどこまで進むのだろうか。7月に武見敬三前厚生労働相が後発品企業13社のトップを集めて業界再編の号令をかけた。それから3ヵ月。各社は話し合いを水面下で進めており、独自にコンソーシアム構想を公表する企業も出てきた。いよいよ業界再編の動きが本格化してきたようにも思えるが、表立った企業統合などの話は出ていない。


武見前厚労相(左奥中央)の挨拶を聞く後発品業界首脳


社長交代にも影響


「やはり再編の中心となるのは沢井製薬と東和薬品だろう。うちは沢井とだったら連携しやすいと思っている」


 そう語るのは武見前厚労相の会合に出席した中堅企業の社長だ。武見会合をきっかけに各社と話し合いを開始し、再編に関する意見交換をしているという。沢井製薬と手を組みやすいと考えるのは、自社で品目の絞り込みを進めたい意向があるためだ。沢井製薬は6月の説明会で積極的に他社製品の製造を自社工場で受け入れる方針を示している。


 沢井製薬では、7月から稼働した第二九州工場やトラストファーマテックでの製造が本格化することで、3ヵ年の中期経営計画(24〜26年度)の間に65億錠の供給能力が加わり、「余剰ライン」が生まれる見通し。そこで沢井製薬の工場で他社製品の製造を引き受け、各社の生産ラインに余力を持たせる方策を打ち出した。他社が同じ製品を生産していれば、その製造を沢井製薬が一手に担う。サワイグループホールディングスの澤井光郎会長兼社長は「企業理念、品質理念が共有できるところであれば、連携はどんどん進めていく」と呼びかけている。


 この方策は品目整理をしたい企業に歓迎されているようで、「沢井への製造委託で赤字品目を押し付けることができる」と臆面もなく話す企業関係者もいる。澤井会長も他社からの依頼が「赤字品目かもしれない」と懸念するが、それでも現時点では業界全体の供給不足の解消が先と強調する。各社の思惑はあるにせよ、沢井製薬が不採算品目を抱える企業の受け皿になることで、再編の求心力を高めるのは間違いない。


 厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」は5月にまとめた報告書で、企業間の連携・協力や役割分担、コンソーシアム、企業統合などを検討することを盛り込んだ。なかでも複数社が集まって共同運営する「コンソーシアム構想」は業界再編のキーワードとなっている。ただ、言葉ばかりが独り歩きしている感じは否めず、捉え方も各社で異なる。


 東和薬品の吉田逸郎社長は、コンソーシアムという言葉を使わず、安定供給に向けた「バックアップ生産体制」という独自案を提案。同一製品を自社の複数工場で製造できる体制を組むことで、地震や水害が起きても供給を継続できる体制を構築する方針だ。東和はバックアップ生産体制を軸に他社との委受託製造を通して連携を模索。


 ただ、品質管理をお互いに確認できるような信頼関係がなければ「アライアンスは組めない」と述べており、従来の単なる委受託よりも距離は縮める。連携する他社からすると、東和薬品と組むことの利点が見出しにくいとの声もあるようだが、構想がより具体化してくれば手を挙げる企業も出てくると見られる。


 ちなみに5月に東和薬品の渉外統括部の田中俊幸部長が日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会学術大会で、複数の後発品企業による「協業スキーム」(案)を示していた。複数会社で新会社を設立し、統一屋号の製品で承認を取得するというものだったが、その後、会社から正式な発表はない。現在、東和薬品は将来ビジョンを作成中で、さまざまな案が検討されているもようだ。


 もっとも、バックアップ生産体制の構築には時間がかかりそう。主要な製品に関して複数工場で製造販売承認を取得する方針で、年間10〜20品目が対象となる。吉田社長は「すごく頑張って10年である程度の見通しがつく」と述べる。今年で73歳となる吉田社長は以前から社長交代が取り沙汰されているが、この構想に思い入れがあるようで、同社社員は「あと5年は社長を続けるのではないか」と予想している。


 一方、コンソーシアム構想を明確に打ち出しているのがMeijiSeikaファルマだ。同社は、新たな新型コロナワクチンであるレプリコンワクチンが話題となっているが、後発品事業でも攻めの姿勢を示している。複数企業が共同で「機能統合法人」を設立し、傘下企業に製造を委託。納品された製品を統一屋号で販売する仕組みを提案している。小林大吉郎社長は、他社から「『もうちょっと話を聞きたい』という声が多い」と手応えを示すが、一方で統一屋号には抵抗感を示す企業も少なくない。「屋号を統一するぐらいなら、販売をやめてしまったほうが手間にならない」(前出の中堅企業社長)との意見も聞かれる。ただ、明確なスキームを示しているだけに、他社よりわかりやすく興味を示す企業も少なくない。


 再編のもうひとつの軸となりそうなのが日医工だが、「不祥事によるマイナスイメージが尾を引いている。沢井製薬や東和薬品ほど再編の中心にはならない。ただ、生産体制が回復してきたことで受託製造を引き受けてくれる余地がある」(前出の中堅企業社長)と分析する。投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)の傘下のもとで共和薬品と組むのは想定内で、さらにもう1社程度加わるのではないかと予想される。


 タイミングよくイスラエルのテバが武田テバの譲渡先を探しているが、主要な後発品各社は「話はない」「買うつもりはない」と興味を示していない。武田テバの社長だったダイトの松森浩士社長は「私が再建した企業なので品質問題はもうない。お買い得の企業」と太鼓判を押すが、テバ本社が提示する価格が高いとの話もあり難航。それでも「メーカー以外」で年内に売却先が決まるという情報も流れている。